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君らは増えすぎだ。
今、君らに必要なものは…
ユルヤカな衰退だ。
滅亡は繁栄した生物の末路だ。
このまま人類がこの世に存在し続ければ、我々の子孫に残された道は滅亡であることは明らか。
人類が滅亡するとしたら、その方法は天変地異でも核戦争でもない。自殺だ。
人類を滅亡させない最善策を、我々は採ってあげてるだけだよ。
誰も哀しまずに済む方法だ。
日々生命を科学する平凡な学生たちがいた。
ある日、一つの細胞が彼らを魅了し熱狂へと駆り立てる。
細胞が導く先には人類の栄光があるはずだった。
しかしその先に本当にあるものに、彼らが気づくにはあまりにも若すぎた。
夜明けなのか、それとも夕暮れなのか。
そんな曖昧な時間のできごとだった。
味気ない研究室。
棚には何者かが入ったビンが丁寧に並べてある。
部屋の中央あたりには、手術台に見立てたテーブル。
そこに、割と図体の大きな男が横たわっている。
大男の肌はハリがある。
しかし髪の毛は抜け落ちているようだ。
大男の横には痩せ気味の、長髪の男が無表情に立っている。
圧倒的に痩せている。
2人とも若いが病的な雰囲気だ。
「…やるぞ」
痩せ気味の男は力なく言った。首筋にはひどい汗。
「ああ…、たのむよ…」
痩せ気味の男とは対照的な太く力強い声だ。
痩せ気味の男の手が動き出す。
腐った豆腐でもいじるような音と、金属がこすれるような音が静かな研究室を巡った後、冷たい壁に次々と吸い込まれていく。
次の瞬間、視点は新宿歌舞伎町に移る。
その二つの視点は対照的であり、同時にどこか共通の属性を感じさせる。
第1章1節
あたりが明るくなった。視点は男の部屋。
若い男の一人暮らしの典型をはめ込んだような部屋だ。
細い腕が伸び、目覚まし時計をつかむ。
数秒、時計と男の顔がにらめっこした。
夢と現実の整合性を取るに足るだけの数秒。
男は時計を乱暴に置くと、慌ただしく部屋を駆け回り身支度をはじめる。
部屋に落ちている服を着る。
鞄にはパソコンと何冊かの本を詰め込む。
最後に鏡の前で髪の毛を数回なでて整えた(フリをした)後、すぐに部屋を飛び出した。
部屋は生暖かく、脂っぽい匂いがしている。
ゴキブリが数匹顔を出した。
主人公:アキヤマ(細胞研究室発起人)
脇役:マツモト(細胞研究室エンジニア)
脇役:ユウキ(細胞研究室エンジニア)
研究室の扉が開く。
アキヤマが息を荒げて中に入って来た。
室内に入ると、マツモトとユウキが興奮気味に話している。
アキヤマの入室にはまだ気がついていないようだ。
「にしても、見たことない細胞だなぁ。もしかして新種かな?」
ユウキというメガネをかけた細身の男が問いかける。
「おそらく、いや間違いない。」
マツモト。筋肉質で頭が悪そうな見た目だが、実はメンサに所属するほどのIQをもつ。
「っていうかそもそもコイツって細胞なん?」
「たしかに見た目は細胞じゃなさそうだ」
「もしかしたらただのウイルスかもな」
「否めん。自己増殖でも確認できたら…」
2人の会話が一段落したときユウキが、アキヤマが来たことに気づいた。
「おぉ、アキヤマ遅せーよ」
「あ、あぁごめん」
「とりあえずこれ、見てみ?」
「え?何かあったん?」
「マツモトが新種見っけちゃったんだよ」
「まだ新種と決まったわけじゃない。」
「いや、間違いない。こいつは新参者だよ。」
「このハゲのどこが新参者なんだよ」
「違げーよ、この細胞だ」
「なんだ細胞が見えるのか?早く言えよ!」
アキヤマは興味津々に顕微鏡を覗きこむ。
中で何者かがうごめいている。
「2匹か…」
アキヤマがつぶやいた瞬間、マツモトとユウキはピクリとした。
「1匹だ」
マツモトが言った。
「いや、2匹いる」
アキヤマが言った。
「ちょっと見せろ」
ユウキが言って顕微鏡を覗き込んだ。
「おい、マツモト…このプレパラートには一匹しか入れてないよな?」
「断言できる。」
とマツモト。
「僕らもしかして本当にやっちゃったんじゃないか?」
「やっぱ2匹なのか?」
とマツモト。
ユウキが震えながら立ち上がり言った、
「アキヤマ、マツモト…こいつ新種だ。」
TO BE CONTINUE
次回予告
ユウキ:「これでこの汚い研究室からゴキどもを駆逐できる」
マツモト:「結局、進化論は人類を選んだわけだ」
細胞研究室で、彼らは部屋のあちこちに細胞を含んだ餌を仕掛けた
次の日、餌はぞっとするほどなくなっていた。
3人は達成した栄光に祝杯をあげるが....
先端細胞研究所は細胞研究の先駆者が所属する研究所である。
DRC(薬物研究機関)は先端細胞研究所から学術レポート受け取り、薬物の調剤研究をする機関。
公共機関の東京都水道局。
先端細胞研究所はたくさんの猿を飼っている。